教授挨拶

 

 

糖尿病、メタボリックシンドローム、高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病はライフスタイルの欧米化と共に顕著に増加している領域です。そして生活習慣病による合併症の発症は、日本人のQOLを支配する重要な因子となっています。例えば糖尿病は、成人の失明や腎透析の最大の原因であるのみならず、高脂血症や高血圧とならんで心筋梗塞や脳卒中の最も重要な原因となっています。そこで、私どもは生活習慣病の遺伝的背景や病態生理、成因を明らかにし、糖尿病、メタボリックシンドローム、高脂血症、動脈硬化を克服する為の創造的努力を、一丸となって取り組んでいます。

増加し続ける糖尿病(あるいは生活習慣病)について何故、糖尿病が増加してしまったのかについて考えてみる必要があります。糖尿病の成因として体質が関与しますが、糖尿病の発症が急速に増加していることから、その主要因は環境や生活習慣の急速な変化:エネルギー摂取の過剰(食事の欧米化)とエネルギー消費(運動)の減少に関係すると考えられています。しかも、日本人の体質・遺伝子システムは現代の生活習慣にうまく適応しにくいという特徴があります。生活習慣の克服は大変困難で、多くの人が生活習慣の変化に適応しきれずに糖尿病を発症しています。糖尿病(あるいは生活習慣病)の研究については、この不適応をどのようにしたら解消できるかということに注目して取り組んでいます。不適応は分子レベルでは生活習慣に対する遺伝子発現、すなわちエネルギー代謝に関与する遺伝子の転写調節の慢性的異常と捉えることが出来ます。

多因子疾患である生活習慣病の原因遺伝子の分離同定や、発生工学的手法を用いた病態モデル動物の開発および解析を通じて、生活習慣病の未知の部分を明確にしたいと考えています。さらに分子生物学的手法を駆使して、糖尿病,メタボリックシンドローム、高脂血症,肥満の共通の基盤であるエネルギー代謝異常・転写調節の分子機構や、生活習慣病の果てにある動脈硬化や糖尿病合併症の分子病態を明らかにしようとしています。そして、現代社会において最も克服しなければならない糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の根治的治療法の開発に発展させたいと考えています。

医学部と理工農薬学部は断絶し、連携がないと思われていますが、我が研究室では医学と理工農薬学の融合を目指しています。医学の研究ではもちろん、医学の知識は必要でありますが、それだけでは研究の発展はありません。医学の知識、理工農薬の知識を融合させ、連携させることにより研究は相乗的な発展が得られると考えます。疾患制御医学専攻、フロンティア医科学専攻飲みならず卓越大学院ヒューマニクス、Human Biology Programを介して医学出身者のみならず、国際的で、理工農薬出身者の研究者の世界からの参加を待っています。

我々が研究を展開しているエネルギー代謝は炎症、細胞増殖、脳科学など、細胞や臓器、個体の生命現象の根幹にかかわります。今までは全く別と考えられていた領域との関連がありそうな印象をもっており、この展開が新しいパラダイムの創成を予感させ、いま目の前に新しい世界の黎明期が横たわっているのではないかと期待しています。

生命現象のより本質へ向かって研究を進めることはとても楽しいことです。底が深いし、飽きることはありません。想定した実験結果を得た時の満足感、予想しない結果を得たときの驚き、そこから得られる未知の真実に触れたときの悦びは、この上ないものです。また論文が受理された時の喜び、感慨は筆舌に尽くしがたいものがあります。

確かに,この道に入れば、楽ではありません。しかし、努力に値する探求心の昂揚と充実感に満ちた毎日を繰り返せるような指導を心掛けたいと思います。

我々と一緒に、教科書に新しい一行、一頁を書き込んでいきましょう。

先端医療に向けて

脂質の質に視点をおいた生活習慣病戦略の開発をイノヴェーションセンター、トランスボーターセンターで展開中です。肥満や貯まった脂を減らす従来の治療だけから視点を変えて新しい生活習慣病治療の新しい理念を提言します。
詳細はラボの研究内容で紹介されていますが、今までエネルギー代謝転写調節の研究を中心に、常に独自の新しい視点で“ひと味違う研究”をめざしてきていました。飽食運動不足から倹約遺伝子と生活習慣病の研究を展開しましたが、最近ではさらに生命の本質をめざした栄養代謝制御の上流にむけた研究、反対の発想で飢餓エネルギー不足時の生体反応のメカニズムを新しい因子で研究しています。

われわれの独自の脂質研究は代謝内分泌を乗り越え、すでに盛んになっている炎症に加え がん、脳にひろがっていこうとしています。 あたらしい学問との融合や国際化の中、新しく一味違う先端医療の萌芽を育てていきます。

筑波大学、学園研究都市の利点を生かして学際的に数理学科、理工学科、電算機センターなどとの協同研究で、動脈硬化や様々な疾患、臓器の新しい先端治療法の研究をめざしています。

糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームの管理は生活習慣の改善が基本ですが、その実践と継続は容易ではありません。近い将来、研究室で展開している脳科学的成果を基に、患者の食行動、運動、行動など生活習慣に行動変容をもたらす新しい治療法、システムを創出して、先端医療を担う大学病院の使命を全うしていきたいと考えています。

社会に向けて

第4次産業ともいうべき知識産業を強めていく事が日本の生き残り、再活性化のカギであり、医療医学はそのフラッグシップとなるべき領域のひとつとするべきです。その知識産業のインフラの中核は大学です。

大学の本分は真理を探究し、知的社会の基盤を創りその中核となる人材を育てることにあります。考える力を、考える習慣を、コミュケーション力と人の和、創造や知的好奇心の涵養、考える医療人、弾力性のある人材を育てる。大学の医学部は、臨床、教育、研究を担う事が求められています。

大筋は今後も変わらないし変わるべきでないと思いますが、それらを追い求め方や姿勢、社会や医療状況の変化とともにあるべき姿大学のあり方を追い求める必要があります。しかも明確なgoalをめざすだけでなく、継続的な変化に耐える姿を。弾力性と剛性を兼ね備えた組織、場でなければなりません。

いま技術革新、ICT、グローバル化、日本の閉塞状況、萎縮などにキイワードから読み取れる事は世の中の変化が早い事、多様性とスピードです。10年かけて変わってきたことが2、3年でかわってしまうこと、これがグローバル化。方向性や力の入れどころに迅速的確安全な対応、先見性をもってシステムや社会の標準を保ち,つくっていく事が必要です。 世の中だけでなく、まずは我々自身、グループそして大学自体が対応できるよう変わっていかねばなりません。

一方、すべてのことがそのスピードにふりまわされてはいけないと思います。我々が取り扱う対象は、患者、高齢者、若手、疾患と心をもった人ですから、よい人材を育てる事、よい人材育成システムをつくること、よい研究をすることは、人がからむことですから時間がかかります。私自身への戒めでもありますが、あせってはいけないとおもいます。ここのところは近道は無く王道を進むしか無いと思っています。

先の見えない時代に突入しつつありますが、逆にチャンスと考え、原点に返りながら大学の医学部のあり方を考えていきたいと思います。また人の和、若い人のポテンシャルを信じて伸び伸びと仕事ができる環境にしていきたいと考えています。

明るく、楽しく、前向きに、誠意をもって、程よく気楽にを旨にやっていきます。極めて月並みなようですが、これらの言葉には、いろいろな困難や障害にあたったときに行き着くべき姿勢と思います。組織の力の源泉は人の和です、皆様のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。