島野先生からのメッセージ

展開と理念そして未来

エネルギー代謝は、生命に必須の営み、あらゆるbiologyに関わり、病態の鍵、治療の標的になります。 みなさんと、サイエンスの紐解きを、点でも線でもなく一味違違う面から多次元的にパラダイムシフトを図っていきます。

エネルギー代謝研究の歴史

本学に着任した20年近く前、発生工学動物,分子生物学的手法を駆使して脂質代謝の転写制御機構解明の研究を手がけ、エネルギー代謝のホメオスタシスにおける転写因子ネットワークパラダイムを提唱しました。 特に脂質合成転写因子SREBP PPAR, LXRの生理的意義や生活習慣病の病態への関与を、動物モデルで実証しそのメカニズムを細胞レベルで解明してきました。逆の発想から飢餓やストレス下に働く新規のエネルギー転写因子CREBHを発見し、特にその生理機能や病態への関連を展開し、糖尿病、生活習慣病の新規治療法開発に向けた臨床応用をめざしてきました。 その後ゲノムやゲノムインフォマティクス、エピジェネティクス、オミクス解析、システムネットワークと“生体”を包括的に捉える手法が進歩し科学のアプローチや捉え方は大きな転換点を迎えています。 幸い筑波大学のTARA-生存ダイナミクスセンター、イノベーションセンター、トランスボーダーセンター、IIIS睡眠統合研究センターなどの学内ファシリティーとの連携を得て最新の技術を駆使しながらエネルギー代謝を解析続けることができています。

今、展開するエネルギー脂質代謝研究

私が一貫して研究を進めてきたSREBPは、この網羅的視点にあっても脂質合成転写因子としてあらゆる臓器のバイオロジーの生理、病態ネットワークのハブ的ノード(結節点)になっています(Nat Rev Endocrinol, 2018)。 これを起点に、当研究では(図)栄養制御上流メカニズム解明の旅はKLF15を巡る解析(矢作、武内グループ: ニュートリノミクスグループ)、真逆の飢餓代謝のCREBH,PPARαの研究(中川グループ:IIIS睡眠統合研究センター)、外部環境ホルモンシグナルに対し細胞内のエネルギー(NADH)を独自に検知するCtBP2(関谷グループ、ハーバード大学共同研究)、後述の脂質の質の視点から広汎な病態に関与する脂肪酸鎖長伸長酵素Elovl6(松坂グループ、トランスボーダーセンター)、メカニズム解析のためオルガネラレベルでの分子可視化を担う合成生物学(宮本グループ 東大農学部共同研究)と大学全体と連携するプロジェクトにひろがってきました(当ラボの各研究紹介サイトをご参照下さい)。

脂肪酸の量と質に視点においた脂質研究

臓器に蓄積する脂質organ lipidが生態の機能障害をきたす脂肪毒性(lipotoxicity)という病態概念を我々独自の視点と方法で、様々な臓器で様々な疾患で解析してきました。 肥満症関連病態、メタボリックシンドローム、内臓脂肪、骨格筋、脂肪肝インスリン抵抗性、膵ベータ細胞インスリン分泌不全、脂肪肝炎(NAFLD,NASH)、脂質異常症と動脈硬化、臓器組織に蓄積したコレステロールや脂肪酸がそれぞれの病態を引き起こすメカニズムを、特にSREBPを介した内因性脂質合成(lipogenesis)の視点から捉えてきました。 細胞内のオルガネラのレベルで、ROS, ERストレス、ミトコンドリア機能異常、オートファジー病態から細胞の分化や機能障害や細胞死にいたるメカニズムをみつめてきました。
これらの研究過程でエポックメイキングになったのは、我々が発見した新しい脂肪酸伸長酵素のノックアウトマウスの研究から、脂質の量だけでなく質の視点:脂肪酸の組成(脂肪酸鎖長)がインスリン抵抗性や生活習慣病病態に影響することを提唱しています。従来のセントラルドグマでは肥満が生活習慣病病態の主因でありその解消が治療に必須であるとされていました。しかし肥満の解消は生活習慣の継続が難しい現状の中、“脂質の質”という新しい視点の治療コンセプトをもたらす新機軸として注目されています。この酵素阻害剤の開発や脂肪酸の種類、組成に基づいた食事療法など新しい概念に関する特許申請、創薬にむけたプロジェクトを展開したいと考えています。
さらに脂質の質を視点とした研究課題は、ひろく脳活動、炎症、増殖とも関連する事がわかり、他領域、他科疾患との共同研究が期待されます。イノヴェーションセンターやトランスボーダーセンターにおいて、臨床、基礎医学系をはじめとして医学系にとどまらず学内における数理、生物、スポーツ医学との連携、共同研究を展開しています。

将来に向けたビジョン〜複合領域への挑戦〜

網羅的な研究法や情報量が席巻する中、病態の捉え方は、一方向性で済まされなく、時空的多次元的で、因果も繋がりも循環的にうけとってinfomatics, 計算化学、ニューラルネットワーク、 AIの活用のレベルが重要です。
また分子メカニズムの解析に、標的分子や関連分子特にキイ脂質分子の可視化による構造と機能の関連の解明をめざしています。 X線回析など物理的構造解析のほか特に電算機センターとの共同研究によりin silicoコンピューターを用いた構造解析を用いた生体膜中の脂質分子のMolecular Dynamicsや分子構造の揺らぎを追いかけます。
ラマン分光法やITCなど新しいModalityで新しいbiology を切り開いていきます。 

研究をめざす人へ

社会勉強としてのラボ

今までの研究の過程で多くの優秀な研究者を学内外に輩出してきました。今は、大学や企業の研究室のヘッドとして一線で活躍されています。彼らも含めて研究室は,医師の他,修士,博士院生,卒研生、海外留学生、ポスドク,企業研究員など多様で異なる価値観と個性からなる集団からなっています。お互いが協力と切磋琢磨のなかで成長するような環境づくりをめざしています。大学の国際化と複合領域の創生の必要性を踏まえ国際交流を進め、若手医師については医学研究のみならず広い見識を身につけられる社会的な修養の場としたいと考えています。

なにをやりたいか、何を求めるか、何が生きがいかそれを明確にしていかないとこれからの時代はつらいと思います。しかしこれは傍からいわれて決める事でなく皆さん自身が見いだしていくものです。

うちなるモチベーション

これからの日本の様な成熟した複雑な社会においては、これこそが個人の生きる指標と組織の発展両面のカギです。ラボも含めて当科は内からわき起こるやる気や生きがいを探るよい場にしようと考えています。当科はできあいの道筋をおしつけるのでなく、新しいキャリアパスを提示したり,あるいは一緒に探っていきたいと思います。
まずはその第一歩である大学院に入って新しい領域、考え方、価値観にふれてみてください。様々なバックグラントの人が集まるラボのheterogeniety多様性はそれを探る絶好の場です。組織や全体の都合と個人の内面的な充足感、将来、幸福の折り合いを一生懸命考えていきたいと思います。
明確な目標と意志を持っている人にはそのための充足感を、まだ迷っている人、そういうタイプでない人には多くの可能性を示していきたい。筑波大学に興味のあるひとは、臨床や研究に対して高いレベルの技術とマインドをもっているとおもいます。
まずはお仕着せでなく自分のうちなる衝動を引き出させる事、維持させること、そしてできればもう一つ先の、別の視点をもたせたり、背中を押してあげる事が我々の使命と信じています。

代表的論文

  • Shimano H, Sato R.
    SREBP-regulated lipid metabolism: convergent physiology – divergent pathophysiology.
    Nat Rev Endocrinol. 13(12):710-730, 2017.
  • Sladek V, Tokiwa H, Shimano H, Shigeta Y.
    Protein Residue Networks from Energetic and Geometric Data: Are They Identical?
    J Chem Theory Comput. 2018 Nov 30. doi: 10.1021/acs.jctc.8b00733. [Epub ahead of print]
  • Oishi Y, Spann NJ, Link VM, Muse ED, Strid T, Edillor C, Kolar MJ, Matsuzaka T, Hayakawa S, Tao J, Kaikkonen MU, Carlin AF, Lam MT, Manabe I, Shimano H, Saghatelian A, Glass CK.
    SREBP1 Contributes to Resolution of Pro-inflammatory TLR4 Signaling by Reprogramming Fatty Acid Metabolism.  Cell Metab. 2017 Feb 7; 25(2): 412-427.
  • Zhao H, Matsuzaka T, Nakano Y, Motomura K, Tang N, Yokoo T, Okajima Y, Han SI, Takeuchi Y, Aita Y, Iwasaki H, Yatoh S, Suzuki H, Sekiya M, Yahagi N, Nakagawa Y, Sone H, Yamada N, Shimano H. Elovl6 Deficiency Improves Glycemic Control in Diabetic db/db Mice by Expanding β-Cell Mass and Increasing Insulin Secretory Capacity. Diabetes. 2017 Jul; 66(7): 1833-1846.
  • Takeuchi Y, Yahagi N, Aita Y, Murayama Y, Sawada Y, Piao X, Toya N, Oya Y, Shikama A, Takarada A, Masuda Y, Nishi M, Kubota M, Izumida Y, Yamamoto T, Sekiya M, Matsuzaka T, Nakagawa Y, Urayama O, Kawakami Y, Iizuka Y, Gotoda T, Itaka K, Kataoka K, Nagai R, Kadowaki T, Yamada N, Lu Y, Jain MK, Shimano H.
    KLF15 Enables Rapid Switching between Lipogenesis and Gluconeogenesis during Fasting.
    Cell Rep.
    16(9):2373-86, 2016.
  • Nakagawa Y, Satoh A, Yabe S, Furusawa M, Tokushige N, Tezuka H, Mikami M, Iwata W, Shingyouchi A, Matsuzaka T, Kiwata S, Fujimoto Y, Shimizu H, Danno H, Yamamoto T, Ishii K, Karasawa T, Takeuchi Y, Iwasaki H, Shimada M, Kawakami Y, Urayama O, Sone H, Takekoshi K, Kobayashi K, Yatoh S, Takahashi A, Yahagi N, Suzuki H, Yamada N, Shimano H.
    Hepatic CREB3L3 controls whole-body energy homeostasis and improves obesity and diabetes.
    Endocrinology. 155(12):4706-19, 2014.
  • Sunaga H, Matsui H, Ueno M, Maeno T, Iso T, Syamsunarno MR, Anjo S, Matsuzaka T, Shimano H, Yokoyama T, Kurabayashi M. Deranged fatty acid composition causes pulmonary fibrosis in Elovl6-deficient mice. Nat Commun. 2013; 4: 2563.
  • Izumida Y, Yahagi N, Takeuchi Y, Nishi M, Shikama A, Takarada A, Masuda Y, Kubota M, Matsuzaka T, Nakagawa Y, Iizuka Y, Itaka K, Kataoka K, Shioda S, Niijima A, Yamada T, Katagiri H, Nagai R, Yamada N, Kadowaki T, Shimano H. Glycogen shortage during fasting triggers liver-brain-adipose neurocircuitry to facilitate fat utilization. Nat Commun. 2013; 4: 2316.
  • Matsuzaka T, Atsumi A, Matsumori R, Nie T, Shinozaki H, Suzuki-Kemuriyama N, Kuba M, Nakagawa Y, Ishii K, Shimada M, Kobayashi K, Yatoh S, Takahashi A, Takekoshi K, Sone H, Yahagi N, Suzuki H, Murata S, Nakamuta M, Yamada N, Shimano H. Elovl6 promotes nonalcoholic steatohepatitis in mice and humans. Hepatology. 2012 Dec; 56(6): 2199-2208.
  • Matsuzaka T, Shimano H, Yahagi N, Kato T, Atsumi A, Yamamoto T, Inoue N, Ishikawa M, Okada S, Ishigaki N, Iwasaki H, Iwasaki Y, Karasawa T, Kumadaki S, Matsui T, Sekiya M, Ohashi K, Hasty AH, Nakagawa Y, Takahashi A, Suzuki H, Yatoh S, Sone H, Toyoshima H, Osuga J, Yamada N.
    Crucial role of a long-chain fatty acid elongase, Elovl6, in obesity-induced insulin resistance.
    Nat Med. 13(10):1193-202, 2007.
  • Nakagawa Y, Shimano H, Yoshikawa T, Ide T, Tamura M, Furusawa M, Yamamoto T, Inoue N, Matsuzaka T, Takahashi A, Hasty AH, Suzuki H, Sone H, Toyoshima H, Yahagi N, Yamada N.
    TFE3 transcriptionally activates hepatic IRS-2, participates in insulin signaling and ameliorates diabetes.
    Nat Med. 12(1):107-13, 2006.
  • Sekiya M, Yahagi N, Matsuzaka T, Najima Y, Nakakuki M, Nagai R, Ishibashi S, Osuga J, Yamada N, Shimano H.
    Polyunsaturated fatty acids ameliorate hepatic steatosis in obese mice by SREBP-1 suppression.
    Hepatology. 38(6):1529-39, 2003.
  • Shimano H, Horton JD, Hammer RE, Shimomura I, Brown MS, Goldstein JL.
    Overproduction of cholesterol and fatty acids causes massive liver enlargement in transgenic mice expressing truncated SREBP-1a.
    J Clin Invest. 98(7):1575-84, 1996.

総説(和文)

  • 脂質の質に視点を置いた臓器障害治療戦略と創薬 : SREBP-1cとElovl6
    Shimano H.
    Yakugaku Zasshi. 35(9):1003-9. doi: 10.1248/yakushi.15-00175-1, 2015.

著書

  • 島野 仁
    SREBPによる脂質代謝調節(第2章 病因と病態生理)
    TG血症(診断と治療のABC)、最新医学者、pp.67-74, 2018.